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「わかりやすいだろう」
「わかりやすいです」

 あれは警部の車だ。その警部と言うのは亘との長年の腐れ縁があり、度々警察の手に負えない厄介事を事務所に持ってくるのである。

「でも、どうして戻らないんですか?」
「今部屋には生王君がいる」

 亘は視線を右下に移す。そこには真新しい煙草の吸い殻が無惨に潰されていた。亘がここに来た時には捨てられてから10分も経っていない様子だった。ポイ捨ては関心しないが、これは生王が捨てた物だ。彼には煙草を吸い終わった後必ず吸い殻を二つにちぎる癖がある。そして吸い殻が階段ではなく路地に続く道に落ちている(因みにこれはほんの微かな吸い殻である。)ことから、恐らくこれはここに帰ってきた時に捨てたものだろう。
 しかし生王がつい先程までさる理由で外出していたと言う事実を知らない及川には別に言う必要もないだろうと亘は特に何も言わなかった。

「ここで一つ問題があるんだ」

 そう、問題はまた別の所にあるのだ。

「実は警部には生王君の事をまだ話していない」

 次に会う時に話せばいいと思っていたのだが、まさかその前に二人が鉢合わせする事になるとは思ってもみなかった。問題は警部殿の性格である。

「きっと不法侵入か何かと騒いでいる筈だ」

 いつも頭より足が先に出る男だ。未だしょっぴかれてはいないようなので、中では二人の攻防が繰り広げられているのかも…

「だから、いつものように頼むよ」

 まるでいつものことだとでも言うように、亘は言った。そして同じくいつものことだとでも言うように、及川は頷いたのである。










「一体何なんだ…いきなり」

 私は痛みの残る脇腹を摩りながら言った。
 気がつくと私はテーブルの横に寝かされていて、その右手には手錠が掛けられていて、ご丁寧にテーブルと繋がれていた。
 亘の私室からはガタガタと物騒な音が聞こえて来る。新手の泥棒かもしれない。随分乱暴な奴だ、と溜め息をついた。

「なんだ、起きたのかよ」

 怪しい男は何やら紙袋を持って亘の私室から出てきた。

「…随分大胆な泥棒だな」
「あんだと…?」

 男はしかめっ面を更にしかめ、額に筋を浮き上がらせる。

「泥棒紛いはてめぇだろうが、一体ここで何してやがった?」
「何…?」

 そこで私は手錠を見る。もしや…

「あなたは警察か?」

 ちゃり、と手錠を掛けられた右手を上げる。すると男はふんと鼻を鳴らした。



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