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「……私には兄弟がいないから、あなたがどのような心境なのかも分からないし、あなたに気の効いた言葉も言えない」
「………」
「だが、あなたにはふてぶてしく笑っている表情の方が似合っている、とは思うな」
「…う」

 これは私の最大級の慰めの言葉だった。他人の揉め事に首を突っ込む程無神経ではない。だが、この人に卑屈な雰囲気は似合わない。そう思った。

「はい、どうぞ」

 二人の前にカクテルが並べられる。私はそれを手に取り口に含んだ。

「…飲まないのか」
「………飲む」

 亘も、ゆっくりとした造作でグラスを手に取り、傾けた。慣れない味だったためか、一瞬渋い顔をしたが、すぐ気に入ったのか、小さく「…ん」と呟いた。

(……私に気を使わせるとはな)

 恐らくそれはこの男だからこそだろう、と私は思った。この男は、一握りの才能に関しては目を見張る所があるが、他はそれこそ大丈夫か?と思ってしまうほど、てんで駄目なのだ。駄目、つまり、劣っている。我々にとって当たり前にこなす事の出来る物が、この男には出来ないのだ。
 人とは違う。考え方も行動も、何もかも。だからこそ、気を使ってしまう。

「生王、君」
「む?」
「さっきは悪かったよ…」

 亘は俯きがちに言った。

「気にしていない」
「…ありがとう」

 結局のところ、私は徐々にこの男に依存していっている。最初はけったいな脅し文句から始まった関係だが、私は奴の術中に嵌まりかけていることに薄々感じていた。

「………」
「…なんだか変な関係ね」

 上司と部下なのに。妃はそう言った。

「正しくは探偵と助手だが」
「あら、探偵さんなの?」

 て言うかいつの間に助手になったの?じゃあ何か依頼しちゃおうかしら、と亘に擦り寄る妃を、私は「ヘテロだと言っただろう」と言って諌めた。

「でも、あなたは手を出したんでしょう?」
「言ったろう、誘ったのはこいつだ」
「…生王君」
「ん?」

 妃とくだらない言い合いをしていると、亘は話し掛けてきた。

「君は…探偵と助手の在り方について、どう思う…?」
「……は?」

 唐突に、そんなことを聞かれる。いきなり何を言い出すのか、怪訝そうな顔をするが、彼の表情はどこか思い詰めているようだった。

「……亘さん?」

 どうした、そう続けようとした時、チリンチリンと店の入り口のベルが鳴った。



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