「……ふぅ」
ぱんぱんと風にたなび…いてはいないが、私、生王誠二は竿に干されている布団を手で叩いた。
及川が学校に行ってからなんとか一人で風呂場で手洗いをし、ここまで至った。あとは乾くのを待つのみだ。
「…ふむ」
今朝、及川が言っていたように、今日は良い晴天だ。雲も少ない。私はくっと伸びをした。ベランダに手を掛け周りを見渡す。
この辺りは割と閑静な住宅街だ。辺りにビルが乱立している自分が住んでいるマンションの近辺とは少し違う。
「たまにはこのような眺めもいいかもしれないな」
だからと言ってこの事務所を気に入っている訳では断じてないが。
(………ん?)
今、視界を何か見覚えのある物が横切ったような気がした。
「………」
暫く考え、私はベランダを離れ玄関の方へ足を向けた。
玄関の前で足を止める。カンカン、と階段を駆け上がる音が聞こえた。
「………」
音が止み、暫く待つが、音沙汰が無い。私ははぁとため息をついた。そして、鍵を開け思い切り扉を開いた。
「……………」
そこには驚いたような間抜け面で、立ち尽くしている亘がいた。
「……随分帰りが早いな」
「………」
しかし、何故か亘は泣きそうな顔をして俯いた。何かあったのか?私は首を傾げた。
「依頼とやらは終わったのか?」
亘は俯きながら、首を横に振った。さっぱり訳が解らない。しかし亘は何も言わないまま、私の横を摺り抜け中に入ろうとする。私はその腕を掴んだ。
「おい、待て、何か言え」
「…言うことなんてないよ」
「そんな泣きそうな顔で言われても説得力がないな」
「ほっといてくれ」
「亘さん」
「うるさい!!」
バシッ、と腕を振り払われる。
私は目を丸くした。何かあったのは確からしい。しかし、亘の反応は、普段の彼には想像もつかないものだった。
「………」
「う…ごめ…」
我に帰ったのか、亘は咄嗟に謝った。泣きそうだった顔が、余計に歪む。
「亘さん、来い」
私は玄関の扉を閉め、鍵を掛けた。名を呼ばれ、叱られるとでも思ったのか亘はギュッと目を閉じた。
好都合だ。私は目を瞑ったままの彼の肩を引き、口付けた。
「…!?」
困惑したかのように、亘は何度も瞬きを繰り返す。抵抗する事も忘れているようだ。
暫く抵抗のない彼の口内を堪能した後、私は唇を離した。
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