「どう言う事だ…!!!」
叫ばずにはいられなかった。
「ごめんなさい、イクルミさん…!うちの父が…」
「テメェ!うちの娘といったいどういった関係だアァン!!?」
「ぐぅ…っ」
胸ぐらを思い切り掴まれ息が詰まる。
「ああっ!やめてお父さん!イクルミさんが死んじゃう!」
そう言って及川は慌てて私の胸倉をつかみ上げ無意識に首もとを圧迫させてくるこの男の手を解こうと、私の首もとに更に圧力を加えてきた。
「ぐ…っ、ぅ」
死ぬ 息が 死ぬ
軽く視界が霞む。
遠くなる意識の中、私の視線は空を切った。
「………?」
何かが頭上に影を作っている。霞んだ視界で、それは何かを確認する前に、私の意識は覚醒した。
「てりゃああああ!!!!!!」
「!!?!!!!??」
それは男の旋毛頭に垂直に落とされ、その瞬間に私の体が解放されたのだが、私はそれに暫く気がつかなかった。
ああ、もう、まどろっこしい揶揄は止そう。足だ。足が落ちてきたのである。正確には"かかと落とし"というやつだ。及川がこの男に"かかと落とし"を食らわせたのである。
「もう!いつもいつも…ちょっとは人の話も聞いてよ!」
いや、それはもっともである。私はうんうんと肯きながらもその目は丸く見開いたままであった。おそらく今年最大の間抜け面なのではないか?ちなみに口元も未だに線のように引きつったままだ。
そうして床に尻餅をつきながら唖然と二人を見ていると、扉の向こうからカンカンと階段を上がる足音が聞こえてきた。私はようやく我に帰る。
「やあ、相変わらず人の話を聞かない癖は治っていないようだね」
ひょっこりと開け放たれた扉から姿を現した亘は、すでにいつも通りの飄々とした風体に戻っていた。
やはり知り合いか。私は床にノックアウトしている大柄な男を見やった。ぐう…とうなり声を出している。
「イクルミさん」
ぱっと、及川が私の横に座り込んだ。
「ごめんなさい、私の父が失礼な事を…」
父。やはり聞き間違いではなかったか。
「君のお父さんは警察の人間なのか」
私は改めて座り直し、先ほどの荒技で乱れた衣服を整えた。
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