4-11




「及川暮次(くれつぐ)警部だよ」

 亘のその言葉に、私は顔を上げた。
 亘は腕を組み、及川警部、と呼ばれた男を見ていた。私の方に視線を寄越さない。私はピクリと、眉間に皺を寄せた。

「あなたも懲りないな、いや、学習しないの間違いか、話を聞かない、誤認する、結果及川くんのかかと落としを食らう、もう見飽きた光景だよ」
「てめえは…いつまで経っても生意気なガキだ」

 そう言うと、及川警部は直撃を受けた頭のてっぺんをさすりながら体を起こした。

 彼が立ち上がる。改めて見るととても大きな体つきだ。自分もどちらかと言うと背が高い方だが、それを頭半分ほど上回っている。亘に関しては、頭一つ分、及川さんなどはもはや比べ物にならない。
 そして体格も良い。がっしりとした、シャツの上からでもわかる張り詰めた肉体と広い肩幅。昔、武術でもやっていたのだろうか?

 と、そこまで考えを巡らせ、私はふと及川さんを見る。
 ………なるほどな。
 人は見かけによらないものだ。

「で、警部殿」

 亘はこちらに目を向けないまま、及川警部に話し掛けた。

「何の用かな?新聞に載っていた女性の失踪事件の話なら、探す必要はないよ、彼女は自らすすんで家を出たんだ、連れ戻したって無駄さ」
「その話じゃない、が、まあ…今の話は一応上に話しておこう…、今回はまったく別の件だ」

 すると、及川警部は懐から一枚のメモリーカードを取り出し、亘に渡す。

「これは?」
「相崎の新しいデータだ」

 その言葉を聞くや否や、亘は目を見開いた。

「相崎?それは一体…」
「ふむ」

 そう言った私の言葉を遮るように、亘は口を開いた。

「ありがとう、警部殿、これでまた奴に近づける」
「感謝されるのは構わねえが、あんまり俺を無理させるなよ、もうそれは俺の管轄じゃねえ、」
「わかっているよ、だからこうして感謝してる」
「……てめぇは…やっぱりいけすかねぇ」

 亘は、受け取ったメモリーカードをポケットにしまい込んだ。私は眉間にさらに皺を寄せる

「おい、待て」
「何かね」

 その時、亘は初めて、私の方を見た。



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