第四章 探偵の憂鬱

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 嫌な予感と言うのか遠からず当たるものだ、と思い知った。










「ただいま」

 僕は懐かしい実家の敷地内に足を踏み入れた。兄に呼び出されるのは珍しくはないが、わざわざ家にまで足を運ばされるのは今日が初めてだ。
 警視総監である兄によって改装されたこの家は、この近辺に建つ家々の中では特に目立つ。かなりでかいと言う訳ではないが、兄と姉、二人だけしか住んでいないにしては少々広すぎる感が否めない。

「賢吾?」

 …あまり会いたくない人に声を掛けられてしまった。

「何よ!そのだらし無い格好!無精髭まで!」

(…久々にあって第一声がそれか)

 僕は姉の姿には大して目もくれず、そのまま玄関に立っていた。すると自分の格好に騒ぎ立てる姉の声に気がついたのか、リビングの扉から兄が顔を出した。相変わらず、堅そうな顔だ。

「ナツキ、ポチが鳴いてたぞ」
「もう、兄さん、ポチじゃなくてタマだって言ってるでしょ?」

 そう言って姉が走り去る。兄はそれを見送ると、僕と向き合った。

「わざわざ悪いな、賢吾」
「別に」
「ならいい、実は今日呼び出したのは事件についてじゃないんだ」

 ぴく、と、僕は眉間にシワを寄せる。

「事件に関して以外の話なら、僕は帰る」
「賢吾、私はお前のことは誰よりも知ってるつもりだ、だがな、もう少し大人になれ」
「うるさい!!」

 僕は声を荒げた。この人にだけは、言われたくないのだ。

「…何故そんなにも嫌がる?」
「わかってるだろう?あんたが嫌いだからだよ…!」
「それが理由ではないだろう」

 兄は玄関との段差を跨ぎ、僕の真正面に立った。

「本当は話なんかしたくない…だが、その反面私に助けを求められることに優越感を感じているんだろう」

 だから事件に関する話には乗るんだろう?
 僕は顔をサッと赤くした。

「ち、ちがう…っ」
「本当に嘘が苦手だな…昔から」

 やめろ、それ以上言うな。僕は兄から逃れるために、その場から駆け出した。













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