第一章 探偵と助手の始まり

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「だからね、ほら、あんなことがあったじゃない、会社としても、このことで心象が悪くなるのはちょっと、いただけないことなのよ、ね」
「はぁ…」

(そのカツラを剥ぎ取ってやろうか…)










 私の名前は生王誠二。私は現在路頭に迷っている。

「………はぁ」

 私は公園のベンチに腰を下ろした。先日事件があった公園だ。そのためかは知らないが、人の姿は見られない。

「………」

 背もたれに背中を預け空を仰ぐ。これからどうするべきか…。私は先程の『元』上司の顔を思い出した。

(ぐ…っ、思い出せばする程苛立ってくる…っ)

「そんなに怖い顔をしていては駄目ですよ」
「むっ?」

 突如声を掛けられ、私は声のした方を振り向いた。

「せっかくの綺麗なお顔が台無しです、ほら、笑顔笑顔」
「………」

 そこには少女(…だと思う。少なくとも童顔には見える。)が立っていた。肩には大きなバッグが掛けられている。

「…怖い顔をしていたつもりはないが」
「怖い顔ですよぉ、人1人殺せそうなくらい」

 その例え方に、私は先日の事件を思い出し顔をしかめた。すると少女は、ほら、その顔、と言った。

「…君がどなたかは知らないが、悪いが今は誰かと話す気分ではないんだ」
「そんなんですか?残念です…綺麗な人だから逆ナンしようと思ったのに」

(何だ、その下心は…!)

 私は少女とは関わるまいと顔を前に戻した。今は他人に構っている暇はないのだ。新しい就職場所を探さなくては…

「ひょっとして、お仕事クビになっちゃったんですか?」
「な…っ!」

 私は思わず少女の方を振り向いた。

「わあ!図星ですか?」
「ぐ…っ」

 そうだ、図星だ。私は先程、上司にクビを言い渡されたのだ。社員の資質よりも会社の心象を第一とするあのハゲによってだ。

「…もしかして、イクルミさん?」
「!なぜ名前を…!」

 私は驚愕した。しかし少女は、やっぱりと言った表情で手を叩いた。

「やっぱり!どこかで見たことのある顔だと思ってたんです!」

 私、美人の顔は忘れませんから!少女はそう言って私の手を握りブンブンと振り出した。


 


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