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「でもナマで見ると一層美人ですね~、写真なんかと比べものにならないや!」

(ぬぅ…っ)

 先日の探偵と言いこの少女と言い、最近やたらと美人美人言われている気がする。私には全く理解出来ないのだが。

「き、君…っ」
「はいっ!?」
「その、写真がどうのと言っていたが、私の写真をいつ見たと?」
「最近です!先生の事件の資料を盗み見ちゃったんですっ」

(ん…?事件?)

 あっ!いけない!少女は突然そう声を上げた。

「お仕事の時間です!遅刻したら大変なことに!」
「ま、待ってくれ、もしや君の"先生"と言うのは…」

 今にも駆け出しそうな少女を呼び止めると、少女はにっこり顔で振り返った。

「…なんならイクルミさん、先生の事務所に来ます?」

 私は突然の誘いに驚いたが、もし彼女の言う"先生"とやらがあの男ならば、一度は会わねばならないと思っていた身としては有り難いことだ。私は首を縦に振った。







「ひゃあ!やっぱり今日も大変なことに!」
「こ、これは…っ」

 彼女の言う事務所は、とある建物の2階に位置していた。標札はなく、少女は慣れた手つきでポケットから鍵を取り出し扉を開けた。
 中は大惨事だった。床一面に紙やら衣服やらが散乱し、足の踏み場が見当たらない。

「一体何が…荒らされでもしたのか?」
「うーん…初めて来る人は大抵そう言いますけど、そうだとしたら荒らした犯人は先生ですね」

 少女は再び慣れたような手つきで床に散らばる諸々を拾い上げていく。

「朝も片付けてはいるんですけど、先生に掛かれば夕方にはまたこの有様です」
「………」

 信じられない。まさにそう言った心情だ。つまりその先生とやらは朝に彼女が片付けた資料やら衣服やらをたった半日でまた散らかしてしまうと言うのだ。

「…同じ人間の所業とは思えんな」
「ふふふ…先生は推理以外のことはてんで駄目な人ですから、だから私がいるんです」

 せっかく片付けた物をまた散らかされたと言うのに、彼女は何故か満足そうな笑みを浮かべていた。まるで自分はこのために働いているのだと言うような表情だ。



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