くっついた後の二人
気を抜けば足を滑らせてしまいそうになる。相変わらずこいつの部屋には足の踏み場がない。
「おい、亘」
「んんん…」
名前を呼んでも唸り声を上げるだけで起き上がり気配がない。
「起きろ、朝だ」
「やー…」
生王は溜め息をつく。これはいつもの如く、強行な手段に出るしかなさそうだ。
足音を立てないよう近付き、毛布の裾を掴む。
「………」
「ぐぅ」
…思い切り引っ張った。
「ぎゃあ!」
「ほら、さっさと起き…」
ろ、最後の一言を言う前に、毛布を剥ぎ取られあわあわとする亘の下半身に目がいった。
「お前…」
「う…さむ…」
奴は下半身に何も身につけていなかった。所謂、Tシャツ一枚。おそらくそれも兄のお下がりであろうためか、長めの裾が際どい感じに脚の付け根を覆っている。
「…下はどうした」
「したぁ…?」
「ズボンと下着のことだ」
確か昨夜見た時はちゃんと履いて自室に入っていったはずだ。辺りを見ると脱ぎちらかされたズボンと下着が床に捨てられていた。
(……暑くて寝ぼけたな…)
生王は、とりあえずそれらを拾い上げ亘に投げつけた。
「なにこれ」
「いい加減、自分の下半身を見てみろ」
そう言われて始めて自分の格好を自覚した亘は一気に顔を紅潮させた。
「な、んなっ、」
「さっさとそれ履いて飯を食え、及川さんが来るぞ」
正直朝っぱらから目の毒でもあるので、さっさと何とかしてほしい、と言うのもある。別に白魚の様な脚だとかではないが、流石に局部ギリギリの箇所をさらされると、朝っぱらから変な邪念と闘う羽目になるのだ。
「……生王君」
しかし、この男がそんなこちらの気持ちを理解出来る筈がなく。
「なんだかちょっといやらしいよね」
「……………」
裾をチラチラとめくったり下ろしたりして弄ぶ。
「ところで生王君、今日の朝ご飯は何…」
「…亘」
生王は亘の前に立ちはだかる。亘はキョトンとした顔をした。
「生王君?」
「私の朝飯なら目の前にあるがな」
「え、どこ…うひゃ!」
思い切り押し倒した。それはもう、力の限り、欲望の限り。押し倒した反動でシャツの裾がめくり上がり、朝の生理現象で半分勃ち上がった性器があらわになった。亘は慌ててそれをシャツを引っ張ることで隠した。
「何故隠す」
「な、なぜって」
「勃っていたな」
「そ、それはいつものことで…」
「触って欲しくはないのか?」
むぐ、亘は口ごもる。生王は布の上から僅かに形を主張するそこを撫でた。亘はびくんと体を震わせる。
「濡れてないか?」
「う、うそ…」
「見ろ、シャツに染みが出来てる」
シャツには、確かに小さな染みが出来ていた。生王はそこをぐりぐりと指で擦った。
「恥ずかしくて濡れるのか」
その言葉に、亘はサッと顔を赤くする。いい顔だ。それは生王の加虐心を酷く煽った。
「後ろも濡れてるのか?」
「やっ!」
するりと、今度は指を後ろに回した。シャツの隙間から手を差し入れ、形のいい尻を揉む。双丘の間の小さな窪みからは、うっすらと腸液が染み出ている。
「何もしないで濡れるようになったか、すっかりネコが板について来たな」
「き、君だって濡れるくせに」
「恥ずかしくて濡れはしないがな」
条件反射のように反論をしようとする口を塞ぐために、生王は濡れた穴に指を二本突き立てた。亘の口から甲高い声が上がる。口で彼に勝てる気はしないので、最近はこうして体に分からせてやる事にしている。
「や、指っ、指、いやっ、」
「そのわりには旨そうに食いついてくるな」
「ひゃ…、言わないでよぉ…」
指を根本まで食い込ませると、今度は鼻に掛かるような悩まげな声を上げる。わざと前立腺のでっぱりに当たらないようにして指を動かすと、キッと睨まれた。
「なんで君は…っ、いつも意地悪ばっか…!」
「意地悪?言っている意味が分からんな」
「分かってるくせに…っ」
「分からん、私はお前のように頭が回る方ではないからな」
ちゃんと、口で言ってみろ。片方の手で、亘の頬に触れながら言った。
「ゆ、ゆび…っ」
「ん…?」
「ゆび、で、気持ちいいとこ…擦ってよ…っ」
きゅう、と、指が締め付けられた。
(素直な奴め…)
要望に応え、生王は一箇所膨らんだ前立腺に近い部分を強く擦り上げた。
「ふ、うぅぅ…」
「口を塞ぐな」
「ふあぁ、」
真一文字で声を抑える唇を指でなぞるとぴく、と唇を微かに開いた。その隙を狙うように自らの唇を重ね舌を絡める。こんな時に饒舌さは役に立たないらしく、荒々しい攻め立てに亘はなす術もなく声を漏らした。
「ふぇ、」
「腰を擦り付けるな」
「や、やだ、もう…」
「淫乱」
我慢が足りない亘は物欲しそうに下半身を擦り付けてくる。仕方ない、時間もないし、生王は手っ取り早くこの行為を終わらせる事にした。
「やぁ、当たって…」
「挿れるぞ」
「ひぁ、」
ずぐ、正面から抱き合ったまま先端を埋めると、後はすんなりと中に挿っていく。
「や、や、」
「熱いな」
性急に体を揺する。背中に腕を回すと、亘も生王の肩に顔を埋め、背中に腕を回した。
「いくるみく、やだっ、おく…っ」
「奥がいいのか」
「ひ、ちが、やぁあっ」
奥をえぐるように腰を動かすと、亘はびくびくと体を反らせて拒絶の言葉を口にする。奴はよくいやだのやだだのを口にするが、体は正直だ。その証拠に生王を銜える結合部は更に深く求めるようにきつく締め付ける。その要望に応えるように、生王は動きを速くした。
「あ、あ、や、だめ、い、」
徐々に締め付けが強くなり、亘の喘ぎ声も段々余裕がなくなってくる。律動に合わせて声が漏れる。生王の背中に爪を立てた。
「イくか?」
「ぁう、い、いっちゃう、ん、」
その言葉を合図に、生王は大きく腰をグラインドさせさらに激しく体を揺さぶった。
「あああ…っ」
「ぐ…」
びくん、亘の体が跳ねるのと同時に、生王は亘の最奥に欲を吐き出した。どくどくと中に白濁が溢れるのが分かる。
「あぅ…」
「…シャツが汚れたな」
「ぅうう…」
見ると、亘が吐き出したものがめくれ上がったシャツに染みを作っている。
「い、生王君…」
「なんだ」
「き、君、また奥に、」
生王は亘の中から萎えたモノを引き抜いた。中から白濁が溢れることはない。
「中途半端に中に出すと、抜く時にシーツが汚れるからな」
「そ、それで僕はいつも腹を壊すって言うのか?君は僕の体よりもシーツの方が大事だって言うのか?」
「腹を?それは知らなかったな、ならばこれからは私が後処理をしてやろう」
や、近寄るな、いらな、ぎゃあああ!
と、大袈裟に叫び声を上げる亘の首根っこを掴み(ついでに衣服も引っつかみ)、生王は風呂場に直行した。
この男相手に手加減はいらない。何だかんだ言ってこいつの足腰が立たなくなったことなどないのだ。(ちなみに生王は何度かある。だから余計に腹が立つ。)
湯の張っていない風呂場に押し込まれた亘は顔を真っ青にして生王を見た。
「さっさと済まさなければな、及川さんが来てしまう」
「や…っ」
「尻を出せ」
それからしばらく、風呂場から亘の声がなり止むことはなかった。
ちなみに及川が事務所に来たのはそれから一時間ほど後のことである。
(イクルミさん、どうして先生はソファーの上でふて腐れているんですか?)
(夢見でも悪かったんじゃないか?)
終