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「先生、いないみたいです」
「いない?」
「きっとお仕事ですね、夜中に依頼人の方でも来たんでしょう」

 そうじゃないと、先生が1人で外出するなんて有り得ません。と及川は言った。

「……この状態で依頼人を迎え入れたのか?」
「でしょうね」

 もし私が依頼人ならば、足も踏み入れたくなくなるだろう。

「ま、お仕事なら仕方ありませんねー、ちゃんとどこかで朝ご飯食べて来てくれるといいんですが…」

 そう言うと、及川は辺りを片付け始めた。

「?君は彼の食事も管理しているのか?」

 釣られ、私も床に散らばった資料を一枚一枚拾い上げる。

「はい、大学の講義は午前だけなので、昼と夜も作ってあげてるんです」
「…それで、部屋の片付けもしているのか?」
「ええ、あと…洗濯や日用品の買い物なんかも」
「………」
「?なんですか?」

 何と言うか…、私はこの探偵事務所の探偵と助手の位置関係に堪え難い違和感を感じてしまった。

「君は探偵の助手だろう、それ以外に…捜査の手伝いをしたり、などというのはないのか?」

 うーん…と及川は唸った。

「そこなんですよねぇ…」
「む?」
「実は私、将来はミステリー小説家になりたいと思ってるんです」

 ほう、私は息をついた。彼女にそんな夢があったとは。

「先生の助手になったのも、そのためなんです、やっぱり百聞は一見にしかずかなって」
「ふむ、それはいい心掛けだ」
「先生の助手になったらきっと捜査のお手伝いをやらせてくれるだろうって」

 でも…、及川はシュンと悲しげな顔をした。

「…先生、一度も私を捜査にお供させてくれたことがないんです」
「…なんだと?」
「……イクルミさん、顔が怖いです」
「それはいい、なぜ探偵の助手が捜査の手伝いをすることが許されんのだ」
「わ、わかりません、たまに頼んでみてるんですけど…いつも華麗にスルーされます…」

 助手を捜査の際に付き従えないとは、それでは助手の意味がないのでは?と私は思った。



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