フェラチオはあまり好きじゃない。曰く顎が疲れるからだとか。
そんな事を言ってなかっただろうかこいつは。
「………おい」
ある夜、すっかりベッドで寝入っていたところ下半身に違和感を感じ目が覚めた。ふと目を開き、下を見るとそこにはスウェットと下着をずらされあそこを丸出しにされた自分の下半身。そしてその"あそこ"にしゃぶりつく恋人の頭があった。
「何、してん、」
じゅるっ、と音を立てて先端を吸われ声が詰まった。いや何してんだマジで。
「んん、起きた?」
すっかり血管でバキバキになっている幹に手を添え先端の穴を舌でちろちろとくすぐりながら、恋人ーーー栞那居尊は言った。
「あん、た、何してんだ…」
「夜這い」
はむ、と亀頭を口に咥える。たっぷりと口内に唾を絡ませぢゅぽぢゅぽと頭を上下させてペニスを扱きだした。
いや、夜這いされてると言うのは見ればわかる、知りたいのはその理由だ。圭一はシーツをぎゅうと掴んで下半身から送り込まれる快感に耐えつつ心の中で突っ込んだ。
「はぁ、でかいなぁ」
れろ、と血管をなぞるように幹に舌を這わせる。普段滅多に見られないその淫靡な様にごくりと喉がなった。
「圭一、これ挿れてもええか?」
「………は?」
どこに、と聞き返す間も無く尊はペニスから糸を引きながら口を離すと、既に着乱れた寝間着の裾を開いた。するりと下着を脱ぎ捨てると同じようにいきり立った尊のペニスが露わになる。その後ろに手を差し入れ尻の狭間に指を沿わせる。くちくちと数回そこを弄ると圭一の腰を跨ぐように膝立ちになった。
「お、おい」
「お前のちんこが入るのよお見とけよ」
開いた脚の間に圭一のペニスを挟み込むように腰を落としていく。固く勃ち上がったそれに手を添わせ、自身の赤く濡れるアナルに擦り付ける。
(ひょっとして、自分で慣らしたのか…?)
そう考えを巡らす余裕もないうちに、ペニスの先端は淫猥なアナルにじわじわと飲み込まれていった。
「は、う」
ぴくんと太ももを跳ねさせ、固く熱い剛直の感触に尊は身体を震わせた。ぬぷぬぷとペニスを中へと迎え入れていく。大きなエラが全て飲み込まれ、ゴリゴリと内壁を刺激していく。途中ぷくりと膨らむ前立腺に引っかかると一層ビクッと身体を跳ねさせた。
「あっ、あん」
半分程挿入ったところで尊はカリで前立腺を刺激するように腰を上下に動かしを始めた。くちゅっくちゅっと結合部から音がなり、泡立ったローションが垂れ落ち圭一の陰毛と睾丸を濡らしていく。
「あっ、あ、あ、あうっ」
尊は赤い顔で眉を歪ませ喘いでいる。
その、目の前に広がる痴態と快感に、圭一は目眩がした。尊はこれは夜這いだと言った。夜這い。夜這いなんて一度もされた経験は無かったし、そもそも騎乗位だって数える程しかやってもらった記憶がない。自身のペニスがそこを出入りする様をガン見しながら、一体何が起こっているかと、目眩がするような気分だった。
「んっ…ん」
尊は圭一の腹に手をつき、一旦動きを止めた。そして一息つくと、更に腰を沈め始めた。半ば程入っていたペニスが更に喰われ、そのいやらしい下の口に飲み込まれていく。
「あ、んっ、ふか…っ、」
ぬちゅっ、と音を立てて全て飲み込む。前後に腰を譲り、馴染ませるように尻を擦り付けた。
「きもちいい…」
とろりとした声で、そう言った。
「…っ!」
「!?あ"っ!」
突然、ガッと腰を掴まれ尊は強く下から突き上げられた。窄まった最奥に亀頭がめり込み目の前に星が飛んだ。
「あ、あっ!やっ、ひゃ、」
「あー…クソッ!クソが、マジでロクでもねぇよあんた…っ」
いつもいつも気儘に好き勝手煽りやがって、だから加減出来なくなるんだ。
パン、パン、と腰を打ち付ける音が部屋に響く。圭一は息継ぎの暇も与えない程に激しく腰を打ち付けていく。ガクガクと揺さぶられ、体を支えるために圭一の腹に添えられていた尊の手は既にその役目をなしてはいなかった。縋るように圭一の胸元に爪を立てている。
「おい、どうなんだ、気持ちいいんだろ?もっと言ってみろよ、ほら」
「あっ、ンンっ、き、きもち、い、あ、ああっ!」
ぽた、と開きっぱなしになった尊の口から溢れ出た涎が圭一の胸元に落ちる。圭一は片腕を伸ばし尊の後頭部を掴むとぐいと自分の顔に寄せ、濡れそぼったその唇を喰らうようにキスをした。
ちゅ、ちゅる、と舌を絡め絶えず溢れる唾液を飲み込んでいく。
「んん、ん、んっ、んんっ、」
必然的に倒れこむような体勢になった尊の程よく肉のついた尻をもう片方の手でぐに、と揉みしだく。己の剛直を飲み込む尻の穴を広げるように皮膚を引っ張り、外側に捲れた内壁を更に刺激するように腰の動きを早めた。
「は、あっ、あっ、あっ、ああっ、ん、」
「は…、やらしい顔、しやがって」
口を離し至近距離のままその顔を見る。
「言えよ、なんだってこんな事、したんだ」
びく、びく、と尊の中が震えてもうすぐ達するのだろうと察する。イくならイけばいい。だが簡単には解放してやらない。圭一は一番奥目掛けてペニスを突き立てた。
「あっ!あああっ!」
一層身体を強く震わせて、尊は中だけで達した。ペニスからは何も出ていない、固くなったままだ。だが圭一は腰の動きを止めなかった。
「あ、ひっ、止まっ、」
「言えってんだよ、何で夜這いなんかしたんだ」
言うまで止めねーぞ。
あんまりな宣告に尊は圭一の首元に顔を埋めた。止まない律動にアナルへの刺激、止められない喘ぎ声。目の前が熱と涙で歪む。
「言わねーんなら別に構わねえぞ?お前がぶっ壊れるだけだ」
「あ、い、いう、から、あっ、」
「へえ?」
「言うか、らっ、止まっ、てぇ…っ、あっ、あ、あんっ」
「ダメだ、このまま言え」
びくんっと尊の身体が再び震えた。直後に腹に感じたぬるりとした感触に、今度は射精しながらイったのだと確信する。それでも止めてやる気は毛頭なかった。
「どうした、言わねーと終わらねえぞ?」
「う、うう、っ」
後でシバく。朦朧とした頭で尊は決意した。そしておずおずと口を開いた。
「お、おま、え、が、」
「俺が?」
「ず、ずっと、おんなと、しゃべ、っ」
ぴたり、と圭一は動きを止めた。
「………なんだって?」
「や、から、お前が、昼間ずっと、女の子とでんわ、してた、」
から。
圭一は心臓がきゅんとなった気がした。
昼間。確かに昔事件がきっかけで世話になった女性から久々に電話が来て長く話し込んでいた。そう言えばその間、尊が何かもの言いたげな顔でずっと見ていたような気がする。
「お前…っ」
嫉 妬 か よ ! ! ! ! ! ! !
圭一は思わず顔を片手で覆った。は?可愛すぎるだろこのおっさんふざけんな。
「そんな理由で……ってえ!」
突如襲った痛みに声を上げた。肩に顔を埋めたままだった尊が噛み付いたのだ。
「何しやがんだ!」
圭一はむくりと尊の体ごと身を起こし、繋がった状態のまま尊と向き合った。
「…おま」
「………悪いか」
先程までの行為のせいなのか、それとも別の理由か、赤く染まった尊の顔は苦しそうに歪んでいた。それはいつも浮かべている薄っぺらい笑顔とは正反対のものだった。
「お前は鈍感やから、いつも気付かん」
「え…」
「人の、好意を、向けられてるお前は何も気付かんのに、いつも俺だけ、」
そこまで言って、尊は口を閉じた。
「すまん、忘れて、くれ」
尊は圭一の首に腕を回し縋るように身を寄せた。
「………」
随分と前の話だ。軍の人間が話しているのを聞いた事がある。栞那居尊は人の心を読めるのだと。まさか超能力者でもあるまいにそんなわけが無いとその時は笑ったが、彼と親密な仲になり、長く彼の側にいる事でそう噂される理由がわかった。
尊の洞察力の高さはある意味他の人間と一線を画していた。ほんの僅かな言動、行動、果ては指先の動き一つとってして彼はその人間の本心を読み取ってしまう。過剰なまでに発達した洞察眼。それが"人の心が読める"と言わしめる尊の能力の正体だった。
正直それを羨ましいと思った事は無い、寧ろ「生きづらそうだな」と圭一はずっと思っていた。人間なんてものは裏表があって当たり前の生き物だ。だがそれを上手く使いこなしながら皆生きている。だからこそ上手くやれる人間関係もあると圭一は思っている。だが尊にとってそんなものは無いに等しい。"全て"が見えてしまうのだ。人間の、裏も表も、良い部分も悪い部分も、全てだ。
付き合い始めたばかりの頃、何故自分なんかと付き合うのかと聞いた時、こう言われた事がある。
「お前は裏表が無いから、一緒にいて安心する」
その直後、まるで言ってはまずい事でも言ったかのように、尊は口籠った。尊がこのような言い方をしたのは後にも先にもこの時だけだった。
そして今、尊はあの時と同じ表情で、口籠っていた。
「…あの人とは何もねえよ」
「……」
「あの人が俺を、どう思ってたとしてもだ」
ここまで言われれば、流石の自分にもわかる。
圭一自身は気付かずとも、女性から好意を向けられている様子を目の前で見せつけられて。
きっと今までにも何度もこんな事があったのだろう。ほんの些細な仕草でも心が読めてしまう尊ならば尚更だ。
「お前は、お前が思ってる以上にモテるから、なぁ」
はは、といつも通りの笑顔で尊は笑った。する、と尊の手が圭一の頬を撫でる。慈しむような柔らかい手付きだ。
「ふふ、でも、そんなに気にせんでええよ、今日はたまたま気になっただけやから」
いつもはこんな風にはならんから。
(さっき"いつも"って言ってたじゃねーか…)
尊が、いつも自分に対して負い目のようなものを感じているのは何となく気づいていた。それは年齢によるものなのか、性別によるものなのか、恐らく両方だ。例えば圭一が女性と二人きりで接している時、尊はいつも嫉妬するような素振りを見せるどころかニコニコと笑いながら時には茶化してくるのだ。当初はその反応に何も気にしていないのかと思っていたが、ある時から、そんな日ほど夜、尊が積極的に求めてくる事に気付いてから、嫉妬していないわけでは無いのだとわかった。真っ向から嫉妬心を向ける事が無いのは元々女好きである圭一に対する負い目から、いつか自分よりも他の女性にベクトルが向く事を当然の事として割り切っているからなのだと。
だからこそ、尊は本心を隠そうとする。いつか来るその時、後腐れの無いように。
(最高に馬鹿だし、不器用だ)
他の女と話してるのが嫌ならそう言えばいい。いつまでもずっと、側にいたいのなら、そう言えばいい。それでも、この男は決して本心を口にはしない。それが圭一の"枷"となると思っているからだ。
圭一は手を伸ばし尊の頬に触れた。ぱちりと尊は不思議そうに瞬きをする。そのまま顔を引き寄せ、唇を重ねた。
カサついた唇だ。女の柔らかさとは程遠い、それでも今、最も愛しいと思える唇だ。圭一はゆっくりと唇を離す。先程まで昂ぶった熱で薄く膜の貼った瞳が見開かれている。その瞼に、もう一度口付けた。
「夜這いくらい、したくなったら好きにすりゃいいさ」
「な、んや、その言い方…」
こんな形でしか自分の本音を表せないのなら、自分はその全てを受け止めるだけだ。
「ばーか、お前を愛してるって事だよ」
「……」
よくわからん、そうぽそりと呟いた。だがきっとわかっているのだろう。熱で火照っていた顔が一層赤くなる。その顔を隠すように尊は圭一の首筋に顔を埋めた。
「ところで」
「……?」
「俺はまだイってないんだが」
「あ」
ビクッと尊は肩を震わせた。
「言ったろ、夜這いしたいなら好きにすりゃいい、その代わり、」
俺も好きにヤり返させてもらうからな。
圭一はその汗ばんだ腰を掴み律動を再開させた。断続的な嬌声が再び尊の口から漏れ出す。
この男が、自分がどれだけ愛されているか自覚するまで、何度もその身体に、心に、刻み込むだけだ。
その為に、圭一は女性とは似つかないその大柄な男の身体を愛おしげに抱き締めるのだった。
終