圭一×尊ss2

尊の古傷をいたわる瀬川。










 尻の中を熱くて固くてぬるついたものが出入りする。気遣うようなその緩々とした動きにもどかしさを感じる。気持ちいいにはいいのだが。
 瀬川圭一が粗野ではあるがとても優しい男だ。それを知ったのは彼とこう言った関係になってから。だからこれもきっと彼の優しさなのだろう。まるで労わるようにそっと左脚に触れる、この手も。

「ん、んっ…」
「は、ぁ…」

 勿論そんな彼の気遣いは嬉しい。正直、彼とこう言った行為をするようになってから数ヶ月だが何故今更?と言う気持ちはあるが、鈍感な彼の事なので深くは考えないようにした。
 だが、だがしかし、それでもだ。
 ぐちゅ、ぐちゅ、と一拍置きながら鳴る粘着質な音にを聞きながら、緩急のつかない快感に退屈を感じ始めてしまっている自分がいる。

「………おい」

 目を閉じて快感を拾っていたところに、声を掛けられる。尊はゆっくりと目を開けた。

「ん…?」
「…今別のこと考えてたろ」

 いつもより理性の残った顔色をした瀬川が顔をしかめながら言った。

「え、ううん」
「嘘つけ」

 集中しろ。
 そう言ってまた腰を動かす。いつもより穏やかな律動ではあるが的確に前立腺を狙って突いてくるのでそれなりに声は出てしまう。快感もある。

「あっ、んんっ、ん」

 でもやっぱり足りない。

(今更…こんなおっさんに何を気遣う事があんねん)

 理由はおそらく、いや確実にこの左脚の古傷だろう。先程からこの左脚にだけは負担を掛けないよう優しく触れてくるのだ。いつもよりゆったりとした動きも、激しい律動が響いてしまわないようにだろう。
 確かにこの古傷が自分の生活に支障をきたしている事は確かだ。少なくとも走る事は出来ないし、長く歩くと引きつって痛みが出てしまう。彼の気遣いは当然だ。今まで乱暴に突かれまくって古傷が疼くなんて事は何度もあったし翌朝にまで引きずるなんて事もざらだった。
 だとしてもだ。

「い、まさら」

 何で今更なんだ。今まで散々人の身体を好き勝手にしておいて、作り変えておいて。

 こんな動きで我慢出来るわけが無いじゃないか。


「あ……?っ!、う、おっ!!?」

 ガッ!と尊は瀬川の背中に腕を回し、力任せに体位を逆転させた。
 転がった拍子に首をいわせたのか「イテテ…」と唸る彼を無視して、自分の股の間に前から手を差し入れ抜けてしまった彼のペニスに指を這わせる。

「は?お、おい」
「しー…」

 黙れ、と言う意味を込めて唇を人差し指で塞いだ。
 ピクリと動いたそれを数回指で扱いてから自分の尻の間で挟んでやる。ローションと、おそらく自分の体液でベトベトになったそれをぬちぬちと尻で擦り、尻の穴に招いた。

「ぁ、んぅ、でか…」

 先程まで飲み込んでいたそれを己の尻穴は難なく飲み込んだ。ゴリゴリと前立腺を擦りながらもう入らないだろうと言う奥まで潜り込む。ぬちゃ、と音をたて、ローションでべとついた尊の尻が瀬川の腹にぺたりと引っ付いた。

「は、な、に、してんだ…っ」

 目を閉じて、彼の顔の横に手をつき一息ついていると切羽詰まった瀬川の声がした。目を開けると信じられないと言う彼の顔。しかしその顔は先程までと比べて上気している。尊は口元でにやりと笑う。

「…生意気な事しよった仕返しや」
「は…?…う"っ」

 不意に腰を前後に動かすとびく、とペニスが震えるのがわかった。彼が驚くのも無理はない。騎乗位なんて、今まで一度もしてやった事がないからだ。にちゃ、にちゃ、と腰を動かす度に粘ついた音が鳴る。はじめての行為だが、される側になった事が無いわけでは無いので動き方は心得ていた。尊は腕を体重を掛け、腰を浮かした。ずる、と、そそり立ったペニスが尻から引きずり出される。

「…俺に乗っかられるんは嫌か?」
「は、?いやっ、そんな事は…」
「なら大人しくしとけ」

 ずちゅ、と再び腰を落とした。全身が痺れるような感覚に顔が切なげに歪む。腰を支える両脚が戦慄く。その衝撃に左脚の付け根にある古傷が少し引きつったが、気に障る程ではない。ギッ、ギシッとベッドを揺らし何度も腰を落とした。

「はっ、あ、あぁ、あっ、いい、んあっ、あ、」

 直腸を出入りする大きなペニスに、尊はとろりとした表情で喘いだ。自分が待っていたのはこれだ。この刺激だ。何度も内壁を擦られ抉られ無遠慮に最奥を突かれる、これが欲しかったのだ。だらしなく開いた口からは涎がつたい、赤黒く立ち上がった尊のペニスは腰の動きに揺れて汁を飛ばしていた。限界が近い。尊は夢中で腰を振った。涙で歪む視界にぎゅっと目を閉じ、僅かな快感も逃さぬように。だから、気が付かなかったのだ。目の前の獣が己の痴態に目をギラつかせていた事に。

「はあ、あ…っ、あ、?ああっ!!」

 ぐ、と腰に手が触れたと思ったら、ズンッと思い切り突き上げられた。

「……好き勝手、動いてんじゃねーよ」
「あ、ぐ、あっ」

 ずん、ずんっと突き上げられ、付いていた手が脱力し上半身が崩れ落ちる。目の前に瀬川の顔が来たと思ったら首筋に手を沿わされ口付けられた。じゅ、じゅる、と舌を絡みとられ、吸われる。その間も腰の動きは止まらない。酸欠になりかける直前で漸く唇を離された。

「…気を遣わなくていいんだな?」

 瀬川が言った。尊はぼんやりとした頭でコクコクと頭を縦に振った。いい、つかわなくていいから、早くもっとめちゃくちゃにしてくれ。尻を犯されながら、なんかそれに似たような事を言ったような気がする。何故なら、瀬川の目の色が変わったから。

「クソ…っ、ぶっこわれても知らねえぞ…!」

 ぐるりと再び世界が反転し、再び瀬川に押し倒された。先程までの優しい手つきとは打って変わった強い力で太ももを掴み大きく開脚させられる。それだけで繋がったままの結合部をきゅうと締め付けてしまった。そのせいか何なのか、瀬川がチッと舌打ちをしたのが聞こえた。両脚を肩に掛けのし掛かられると、自然と腰がベッドから離れ身体を二つに折り畳まれるような格好になる。
 ピリ、と、古傷が痛んだ。

「ぁあっ!!」

 真上から押し潰されるようにペニスを根本まで挿入される。中を満たすローションがブチュ、と音を立て結合部から外に押し出される。トロリと垂れたローションが得る会陰をつたって尊の腹を汚した。

「あ、う、」
「お望み通り、いつものようにしてやるよ」

 にやりと笑ったその顔に興奮してしまった事は、思わず尻で締め付けてしまった事できっとバレてしまっただろう。



















「…失敗した」

 翌朝。案の定痛い腰と尻と全身に散ったキスマークと歯型と腰やら太ももやらについた手形に絶望した尊は布団に全身くるまり呟いた。

「何か言ったか?」
「…腰が痛くて辛くてしんどくて今日は動かれへん」
「いや、絶対んな長文言ってなかったろ」

 ちゃっかり自分一人着替えを済ませ隣で寝転びながら携帯をいじっている絶倫性欲魔人を、尊は布団の隙間から睨みつけた。

「んな可愛い顔すんなよ、またヤりたくなるだろ」
「死ねや」
「…あんたいつもより口悪くねえか?」

 わ、悪かったよ…自制がきかなくて…と今更意味のない弁明をしながら布団の上から腰をさすってくる手の温もりをじわりと感じ、尊は顔を隠すように布団の隙間を閉じた。

「なあ、ところでさ…脚、大丈夫か?」

 スル…と腰を撫でていた手が太ももに移動し、労わるように撫でられる。

「…今さら気遣われてもなぁ」
「う、それは…」
「ふふ、冗談や」

 痛くも痒くも無いよ、ひょっこりと布団から顔を出し、笑いながら言ってやった。わかりやすくホッとした表情をして、そうか、と言うと、瀬川はくしゃりと尊の寝癖でぐしゃぐしゃになった髪を撫でその身体を布団ごと抱きしめた。

「俺、言われねーと気付かねえ事もあるからよ、本当に嫌だったらちゃんと言えよ」
「せやなあ、俺もセックスが原因で腰痛持ちになりましたなんて恥ずかしゅうて言えんし」
「…口の減らねえおっさんだな」

 なんか眠くなって来た、二度寝すっか。そう言って瀬川は腕の力を強めた。やれやれと尊は困った顔をする。しかし、密着してくる体温は心地よく、別にいいかと自分も二度寝の体勢に入る事にした。

 …尊は一つだけ嘘をついていた。ピリピリと引きつる左脚の古傷。少し動かしただけでも、僅かだが鈍い痛みが走る。それでも、これからもずっと本当の事を言うつもりはない。


「俺………、……やからな…」
「ん?なんか言ったか?」
「んーん、なんも」

 尊は瀬川の肩に顔を埋めた。この温もりも、激情も何もかも、ぶつけられる人間が自分だけならいいのにと思う。彼の全てを受け止められるなら、自分の身体なんか壊れてしまっても構わないと思っている。

(なんて、言ったら怒るやろ)

 だから言わない。

「おやすみ、圭一」
「ん…」

 目が覚めたらきっとこの脚の痛みも引いているだろう。尊はそっと目を閉じた。















終わり。